2020.11.05

数々のアート作品に触れられる、美術館のようなホテル

数々のアート作品に触れられる、美術館のようなホテル

ゲストを金沢のアートと工芸でもてなす。

金沢駅の西口エリアがいま注目を浴びています。この一帯ではここ数年間、マンションやオフィスのオープンが相次ぎ、再開発が進んできました。2020年には、大型クルーズ船の発着場となる「金沢港クルーズターミナル」が開業したことから、いまでは世界に向けた玄関口という色合いも強くなっています。このエリアで、特に話題となったのが「ハイアット セントリック 金沢」です。金沢初のハイアットブランドということもあり、市民からは大きな期待感をもって歓迎されています。

100点を超えるアートが並ぶ驚きある空間。

この「ハイアットセントリック金沢」の特徴は、随所に金沢の伝統文化やアートを取り入れていることです。独自にキュレーションされた、石川・金沢の伝統や文化を感じさせる多彩な作品群は100点を超え、人間国宝や芸術院会員などの手による最高峰の逸品から若手作家による意欲溢れるアートまで、幅広く集められています。ホテルの雰囲気に溶け込むようにコーディネートされており、いたるところで素敵なアートに出会うことができます。その中でも、特に目を引くのが金箔を用いた作品です。北陸を代表する伝統工芸である金箔を用いたアートを3点、ご紹介します。
 

「野鍛冶の門冠」(小沢敦志)×「Blue Rhythm」(大森慶宣)

エントランスではうねるようなブルーを背景に、見事な枝ぶりをたたえる金箔の松がお出迎えしてくれます。これは使い古された鉄の道具でくみ上げられています。鉄作家小沢敦志氏による作品で、「野鍛治の門冠」と名付けられました。野鍛冶とは、鍬や鋤など、主に農作業や漁業に使われる道具を作る鍛冶のこと。小沢氏は北陸の農村を巡り、使い古された鉄の道具を集めました。モチーフは、縁起が良いとされる門冠(もんかぶり)の松。背景は、金沢市在住の大森慶宣氏による「Blue Rhythm」。氏は「一筆描き」のアーティスト。いったん筆をキャンバスに置けば、離すことなく一気に描き上げます。伸びやかな線は、その瞬間の感情を写し取るように、様々な表情を見せています。二つの若い才能が生み出した、迫力あるアート作品です。

「宝生五雲」(杉山陽平)

杉山陽平氏は、石川県生まれのイラストレーター/デザイナーです。2階の会議室にあしらわれた巨大な障子に金箔で雲を描いた「宝生五雲」。五雲とは、能の世界の伝統的な文様で、宝生流の扇に用いられます。また、金箔で雲を表現するのは、狩野永徳らの洛中洛外図でも用いられた、古典的な手法です。ここでは、古典から引用したデザインが乳白色と金箔の2色で、シンプルかつモダンな雰囲気にまとめられています。

3階ロビーのアート作品

白と黒の2つの色で、金沢の街に雨が降り黒瓦を濡らす様子を表現しています。この素材は、箔打ちに使われた革を再利用したものです。さらに、その箔打ちの革は、かつて三味線に使われていたものを再利用しています。三味線は、茶屋街の芸妓たちに欠かせないもの。多くの粋人たちを酔わせてきた楽器から、やがて箔打ち職人たちの手にわたり、美しい金箔を生んできたのです。まさに、金沢らしい文化の脇役をずっと務めてきた素材が、今ここで新しい命を与えられて、輝いているのです。