2020.02.20

封じ込めた旨みの豊かさに舌鼓〜石川の伝統的保存食①〜

封じ込めた旨みの豊かさに舌鼓〜石川の伝統的保存食①〜

恵まれた土地が育んだ伝統の郷土食

 霊峰白山を背に、周囲を日本海に囲まれた石川県は、古くより山海の恵みが豊富に入手できる土地。また、江戸時代に盛んに行われた北前船交易によって北海道の昆布・ニシンなど各地の食材が持ち込まれるなど、独自の食の世界が開かれていきました。

 その代表格が保存食です。冷蔵庫のない時代に、どうしたら食品をおいしく長持ちさせられるか。先人の知恵と努力から生まれた味わいは、今も名物となって私たちを楽しませてくれています。魚のこんか漬け(米糠漬け)は、その一例。冬の降雪や夏の高温多湿といった気候風土で、米糠(こめぬか)が入手しやすいことも手伝って漬物の技術が発達しました。イワシやニシンの糠漬けは、かつての貴重なタンパク源。また、猛毒のフグの卵巣を塩漬け後、糠漬けにして2年間以上、年月を加えることで解毒した「フグの子」は、石川県内でしか製造が許されず、発酵学の権威である小泉武夫氏も称賛する「奇跡の発酵食品」として知られています。

 一方、ぐるぐる巻きの形状が面白い「巻鰤(まきぶり)」は、能登産のブリを金沢や京都に献上する際、腐敗しないよう工夫したことから生まれたもの。塩漬けの後、ワラで巻いて乾燥させることで長期保存を可能にしています。そうした素材の保存目的で技術が磨かれ、今に伝わっています。

伝統をしっかりと守りながら受け継がれるこんか漬け

ふぐの卵巣を漬けたふぐの子。そのままでも美味しい

先人の技で醸す味わいを直売店で

 製造元の各直売所では、伝統の味わいが色とりどりにラインナップされています。魚介の糠漬けは生のまま食べられるものが多く、糠を箸などで落とし、スライスして食べます。塩分が気になる場合は、日本酒や酢にしばらく浸すと優しい味わいに。また、糠を少し落とし、焦げすぎないよう注意して焼いて食べるのもおすすめ。酒の肴はもちろん、ご飯との相性は抜群です。

◆ 味の近岡屋・あじのちかおかや(金沢市)

創業120余年の味の近岡屋は、金沢を代表する佃煮の老舗。日常の食卓はもちろんのこと、婚礼や報恩講などの宴席に欠かせない伝統の保存食を、昔ながらの製法で、精魂込めて作り続けています。看板商品は、川魚のゴリを米飴や醤油などで煮絡めた「ごり佃煮」、芳香豊かな鬼くるみを贅沢に甘露煮にした「くるみ煮」など。また「巻鰤」も人気で、刺身のように薄く切って食べてよし、日本酒や酢に浸してから味わってよし。生ハムのように奥行きのある風味が、同じく定番の「ふぐの粕漬・ぬか漬」とともに食通たちから絶賛されています。佃煮を作る際などに使う米飴「じろ飴」も金沢伝統の味覚で、瓶詰めして売られています。
TEL:076-242-3388 / 住所:石川県金沢市野町3−2−31 / 時間:8:30〜18:00 / 休日:日曜 / 駐車場:店舗前駐車可

巻鰤1,080円、若ごり648円、くるみ煮540円、じろ飴432円など

店頭には佃煮が並び、お好みに応じて量り売りしている

にし茶屋街や寺町寺院群からほど近い場所にある

◆ 油与商店・あぶらよしょうてん(金沢市)

漁港を抱える金沢市金石は、江戸時代には北前船交易で栄えた街。魚介の糠漬けなど塩物加工を行う商店が幾つもありましたが、現在は油与商店が市内で唯一、伝統の味を守り続けています。塩物加工を始めてから約150年という老舗の製法は、頑ななまでに昔ながら。木桶に素材を漬け込むと、自家製いしる(魚醤)を注ぎ足し、木桶の側面を日々拭き清めるという地道な作業を繰り返しながら時間をかけて熟成。名物「ふぐの子糠漬・粕漬」をはじめ、ノドグロやサンマなど、多彩な魚を漬け込むとともに、塩分を気にする人向けに料理法を紹介。地元産甘エビやバイ貝などを低塩で漬けた「海鮮ぬか漬け」を開発したり、伝統の味を次代へつなごうと挑戦を続けているのも頼もしい限りです。
TEL:076-267-0031 / 住所:石川県金沢市金石北2−1−33 / 時間:9:00〜17:00 / 休日:日曜・祝日 / 駐車場:あり

糠丸さば800円、糠のどぐろ680円、糠ぶり500円、ふぐの子糠漬800円など

貯蔵蔵には熟成発酵のための木樽が積み上げられている

金石の昔ながらの細い道路に面してある油与商店

◆ ぶった農産・ぶったのうさん(野々市市)

ぶった農産のものづくりの舞台は、手取川扇状地。白山の豊かな恵みを受ける大地で、おいしくて安全な作物づくりを追求する農業者です。お米や野菜などの食材とともに、注目されているのが保存食。自社の特別栽培米で作った米麹や、精米の際に出る米糠を利用。伝統の製法でじっくり熟成させた発酵食品が人気を博しています。「こんか漬」の一番人気は、脂がのって旨みの強いサバ。また、国産天然ブリや希少部位のブリカマが醸す深い旨みにもファンは多く、懐かしい味わいのニシンやイワシ、芳醇なタラコなどがラインナップされている。ほかにも桜チップでスモークしたタイプや手軽なスライスパック、小分けパック「NoKA」など、こんか漬初心者のための商品も豊富に揃っています。
TEL:076-248-0760 / 住所:石川県野々市市上林2−162−1 / 時間:9:00〜17:00 / 休日:日曜(11・12月は無休) / 駐車場:約20台

こんか漬ふぐ(75g)756円、こんか漬たらこ756円〜、NoKAこんか漬ぶり(23g)356円など

小分けパック「NoKA」はすぐ食べられて便利

土蔵の左に併設したショップ

◆ 任孫商店・とうまごしょうてん(白山市)

白山市美川は、北前船交易で隆盛を極めた港町。魚介の糠漬けなどの発酵食品づくりが盛んで、この店も200年以上続く老舗として伝統の味を守り続けています。6代目となる現店主のこだわりは、時間を惜しまない自然発酵。たとえばサバの糠漬けは、1年半~2年をかけてゆっくり熟成します。糠漬けの木樽が並ぶ蔵は、江戸時代の建造物で、発酵には長い年月蔵に棲みついている蔵付きの菌が不可欠だと主人は言います。じっくり醸された味わいは、塩辛さもさることながら旨みがぐっと増してまろやかで、深みのある色合いも特徴的。飴色の美しさが際立つ「ふぐの子糠漬」を筆頭に、サバ、ニシン、カワハギ、ブリと多彩なバリエーションが揃っています。
TEL:076-278-7000 / 住所:石川県白山市永代町甲201 / 時間:9:00〜18:00 / 休日:水曜 / 駐車場:5台

ふぐの子糠漬け(100gあたり)570円、さば糠漬1枚380円、いわし糠漬2尾380円など

蔵の中には木樽が居心地良さそうに眠っている

店の周囲には古い蔵が並び、壊さず大切に使い続けている