恵まれた土地が育んだ伝統の郷土食
霊峰白山を背に、周囲を日本海に囲まれた石川県は、古くより山海の恵みが豊富に入手できる土地。また、江戸時代に盛んに行われた北前船交易によって北海道の昆布・ニシンなど各地の食材が持ち込まれるなど、独自の食の世界が開かれていきました。
その代表格が保存食です。冷蔵庫のない時代に、どうしたら食品をおいしく長持ちさせられるか。先人の知恵と努力から生まれた味わいは、今も名物となって私たちを楽しませてくれています。魚のこんか漬け(米糠漬け)は、その一例。冬の降雪や夏の高温多湿といった気候風土で、米糠(こめぬか)が入手しやすいことも手伝って漬物の技術が発達しました。イワシやニシンの糠漬けは、かつての貴重なタンパク源。また、猛毒のフグの卵巣を塩漬け後、糠漬けにして2年間以上、年月を加えることで解毒した「フグの子」は、石川県内でしか製造が許されず、発酵学の権威である小泉武夫氏も称賛する「奇跡の発酵食品」として知られています。
一方、ぐるぐる巻きの形状が面白い「巻鰤(まきぶり)」は、能登産のブリを金沢や京都に献上する際、腐敗しないよう工夫したことから生まれたもの。塩漬けの後、ワラで巻いて乾燥させることで長期保存を可能にしています。そうした素材の保存目的で技術が磨かれ、今に伝わっています。