「中屋の混元丹」で知られる名店が舞台
江戸時代、百万石の城下町として大いに賑わった金沢。江戸や京都、大阪に続く大都市として栄えたこともあり、街道沿いには大店が軒を連ねていました。
中屋薬舗もその1つ。天正7年(1579)に中屋彦兵衛が創業した薬屋で、藩政の初め頃に金沢市街(旧南町)で店を構えました。家伝の薬は藩主前田家の信頼も厚く、5代の前田綱紀により、御殿薬の処方を拝領。以降、代々町年寄りを務めるなど、数ある商家の中でも格式の高さを誇る存在でした。
中屋家は明治時代以降も薬屋を営業。練薬「混元丹」は、地元民なら知らぬ者のないほどの定番品で、強壮健胃薬として愛され続けています。明治11年(1878)に明治天皇が全国行幸で金沢を訪れた際は、中屋家が御在所に指定されるぐらい、まさしく金沢を代表する商店でした。
そんな中屋家の建物を、武家屋敷で有名な長町地区に移築。金沢の老舗を紹介する場として平成元年(1989)に生まれたのが金沢市老舗記念館です。建物自体は明治天皇の行幸に合わせて建てられ、大正8年(1919)に改築されたもの。立派な木材を惜しげもなく使った佇まいが老舗の風格をたたえています。