2020.02.05

金沢市老舗記念館で、百万石の町民文化をまったりと

金沢市老舗記念館で、百万石の町民文化をまったりと

「中屋の混元丹」で知られる名店が舞台

 江戸時代、百万石の城下町として大いに賑わった金沢。江戸や京都、大阪に続く大都市として栄えたこともあり、街道沿いには大店が軒を連ねていました。
 中屋薬舗もその1つ。天正7年(1579)に中屋彦兵衛が創業した薬屋で、藩政の初め頃に金沢市街(旧南町)で店を構えました。家伝の薬は藩主前田家の信頼も厚く、5代の前田綱紀により、御殿薬の処方を拝領。以降、代々町年寄りを務めるなど、数ある商家の中でも格式の高さを誇る存在でした。

 中屋家は明治時代以降も薬屋を営業。練薬「混元丹」は、地元民なら知らぬ者のないほどの定番品で、強壮健胃薬として愛され続けています。明治11年(1878)に明治天皇が全国行幸で金沢を訪れた際は、中屋家が御在所に指定されるぐらい、まさしく金沢を代表する商店でした。
 そんな中屋家の建物を、武家屋敷で有名な長町地区に移築。金沢の老舗を紹介する場として平成元年(1989)に生まれたのが金沢市老舗記念館です。建物自体は明治天皇の行幸に合わせて建てられ、大正8年(1919)に改築されたもの。立派な木材を惜しげもなく使った佇まいが老舗の風格をたたえています。

囲炉裏をしつらえた、おえの間は15畳

季節ごとに彩りを変える庭を歩いてみるのもいいね

4畳半の茶室。格式の高い商家には茶室があったようです

みせの間からは通りを見渡せる

老舗の在りし日に思いを馳せる時間

 木造2階建ての記念館は、1階と2階の2部構成。1階は中屋家の藩政時の姿を偲ぶ場で、入ってすぐの「みせの間」は靴のまま土間から見学でき、そろばんや帳簿、火鉢などの向こうに大きな薬箪笥が設えられています。かつては屋根上にあった「官許」の丸看板も店先にあり、奥には薬の製造道具類なども展示。藩政時代の薬屋の様子が目に浮かびます。中屋家所蔵の貴重な道具類約千点は金沢市が保管、2013年に石川県では初めて国の登録有形民俗文化財に指定されています。

 さて、靴を脱いで家の中へ。囲炉裏のある「おえの間」や座敷、書院、茶室があります。当時は茶室を家の中に設ける裕福な商家も多く、老舗店主たちが風雅を楽しんでいた様子が伺えます。
 一方、2階は金沢の老舗企業を紹介するゾーン。金沢老舗百年会の協力の下、さまざまな老舗に伝わる資料・道具が並びます。また、「婚礼模様」コーナーも要チェック。結納の水引や花嫁のれん、婚礼菓子など、金沢らしい華麗な婚礼アイテムが目を楽しませてくれるでしょう。

 ミシュランの日本旅行ガイドの一つ星にも選ばれたこの記念館。魅力の観光スポットであると同時に、木造建築のおおらかさや美しい庭の眺めは、癒やし効果も上々です。武家屋敷散策で疲れたときには休息がてら、靴を脱いでゆっくりと町民文化に浸ってはいかがですか。

金沢老舗百年展は年3回展示替えされる

金沢の華やかな婚礼の一部が垣間見える

すべてお菓子の材料で作られた工芸菓子の展示

金沢市老舗記念館

かなざわししにせきねんかん

TEL:076−220−2524
住所:石川県金沢市長町2−2−45
時間:9:30〜17:00(入館は16:30まで)
休日:無休(展示替え期間は休館)
料金:大人100円、高校生以下無料
駐車場:なし