2018.10.20

美しさと堅牢さで“天下の名品”と謳われた加賀の手わざ~加賀象嵌~

美しさと堅牢さで“天下の名品”と謳われた加賀の手わざ~加賀象嵌~

加賀藩の庇護のもと、技を極める

象嵌(ぞうがん)とは、金属に色彩や質感の異なる別の金属を“象(かたど)”って“嵌(は)”めこむ伝統工芸。金沢では、加賀藩2代藩主・前田利長が京都から招いた金工職人が伝えた彫金技術をルーツとし、藩の庇護のもと発展しました。

加賀象嵌の特徴は、象嵌技法のなかでも、「平象嵌」の技を守っていることにあります。平象嵌はその名のとおり表面が平らで、模様部分は一見すると地金に色を塗ったように見えますが、地金に溝を彫り、その中にぴったりと異なる金属を打ち込んで表現します。接着材を一切使うことなく、ほかの産地の布目象眼とは異なり、厚みのある地金を使用する、たいへん贅沢な細工です。
このような手法を経ることで、加賀象嵌は長い年月や衝撃にも剥がれ落ちることのない堅牢さを備えることができます。また、金工において色彩によるデザイン性を表現できることも、加賀象嵌ならではの魅力と言えるでしょう。

江戸時代には主に武具がつくられ、幕府や諸大名にも献上されました。なかでも加賀象嵌を施した鐙(あぶみ)は評判が高く「天下の名品」として武士たちの憧憬の的でした

新たな表現者たちへの継承

加賀象嵌独自の質感や意匠は、コンマ何ミリの精緻な世界でつくられるからこそ表現できます。しかし、その高度さゆえ藩の後ろ盾を失ってからは後継者不足が懸念されてきました。それでも連綿とその技を伝えてきた職人たちの努力や、金沢市による後継者育成が実を結び、近年は女性を中心に若い作家も活躍。花器や香炉、アクセサリーなどにその技が生かされています。

さらに、もっと加賀象嵌を知ってほしいと、制作体験ができるスポットも誕生。

そのひとつ「金属工芸 加澤美照工房」は、百年以上加賀象嵌中心に歩んできた工房で、金沢駅の柱を彩る伝統工芸品プレートの制作も手がけました。こちらの体験教室では、松脂(まつやに)の上に地金を乗せ、ふだん職人が使っている道具を用いて、キーホルダーやペンダントトップをつくることができます。

このような体験教室の開催や作家たちの活躍により、加賀象嵌の魅力は「工芸のまち金沢」で着実に未来へと受け継がれています。

象嵌作品が並ぶギャラリー

象嵌を中心に、創業百余年の間につくられた金工作品を展示

金属工芸 加澤美照工房
きんぞくこうげい かざわびしょうこうぼう

TEL:076-261-3919
住所:金沢市瓢箪町8-33
時間:10:00~17:00
休日:日曜、祝日
料金:加賀象嵌体験3,240円(要予約)約2時間

※今回の画像撮影はすべて加澤美照工房です。