ふるさと金沢への思いを作品に込めて
「ふるさとは遠きにありて思ふもの そして悲しくうたふもの」。これは金沢三文豪のひとり、室生犀星の『抒情小曲集』に収められた一節。詩人として身を立てようと上京した若き日の犀星が、ふるさと金沢への思いを断ち切らんとする切なさを表現したものです。 明治22年(1889)に私生児として生まれた犀星は、生まれて間もなく犀川ほとりの雨宝院に引き取られ、養子となりました。こうした複雑な生い立ちが、美しいふるさとへの思いや命を慈しむ心、家族愛を描く犀星文学に大きな影響を与えたといわれています。犀川の西に生まれ育ったことがペンネームの由来となったように、犀川の風景をこよなく愛した犀星。「美しき川は流れたり そのほとりに我はすみぬ」というように作品にもたびたびその名が登場します。