武士のまちに映える着物
加賀百万石の城下町金沢は、着物が似合うまち。江戸中期からの歴史を受け継ぐ「加賀友禅」の産地でもあります。加賀友禅の特徴は、藍・臙脂(えんじ)・黄土・草・古代紫の加賀五彩を基調とした落ち着いた色味と、草花などをモチーフとした写実的な絵柄。色の濃淡をつける「ぼかし」や、風物のありのままを描く「虫食い」といった技法を用いて自然美を着物に映し出します。金箔や刺繍などをほどこした京友禅に比べると決して華やかではありませんが、質実剛健を旨とする武家文化が生み出した気品と趣とが、加賀友禅ならではの存在感を醸し出します。金沢には古くから「加賀お国染」とよばれる独特の染色技術がありましたが、それが加賀友禅として花開いた背景には、江戸中期に京都から移り住んだ絵師・宮崎友禅斎の存在があります。彼は扇や着物のデザインで人気を博した、いわば売れっ子デザイナー。友禅斎が加賀の地へ持ち込んだ斬新な意匠や友禅染の技術が、加賀友禅の礎となりました。