2020.10.01

知っているともっと楽しい、茶屋建築のいろは。

知っているともっと楽しい、茶屋建築のいろは。

物語の詰まった、歴史的建造物群。

金沢市の浅野川界隈に位置する東山ひがし地区。ここは、藩政期の文政 3 年(1820)に公許・形成されて以来、その風情あふれる美しい街並みをいまに伝えています。重要伝統的建造物群保存地区(重伝建)に登録されており、約1.8haの地区内に144棟の建物があります(平成30年時点)。そのうちの94棟が伝統的建造物です。街並を特徴づける美しい出格子と、2階を高くして座敷を設けた独特の構造を持つ茶屋建築がいくつも立ち並んでいます。重伝建は全国に数多くありますが、茶屋街として登録されているのものは4地区しかありません。そのうちの1つがひがし茶屋街で、もう1つは、浅野川を挟んた対岸の主計町の茶屋街です。ですからこの浅野川界隈は、全国でも屈指の茶屋建築のメッカと言えるでしょう。今回は、金沢市指定保存建造物でもある「金澤しつらえ(旧諸江屋)」を参照しながら、茶屋建築の魅力についてご紹介をします。

出格子(木虫籠、きむすこ)

茶屋建築の多くは、出格子(道側にせり出した格子)を備えています。これはひがし茶屋街の美しい景観を形成しています。その出格子にもいくつかの様式があります。最も古いタイプのものが木虫籠(きむすこ)です。木虫籠はひがし茶屋街の建築文化における独自性のひとつ言えるでしょう。この木虫籠は、その名の通り、まるで虫籠のような細かく規則的なスリットが特徴です。繊細で美しい意匠は、茶屋建築の大きな魅力となっています。この格子をよく見ると、一本ごとに台形の形状になっており、内側にむけて少しすぼんでいることがわかります。この工夫によって、外からは中が見えず中からは外が見える、マジックミラーのような効果を生み出しています。

弁柄塗り(べんがらぬり)

茶屋建築の特徴的な外観の色彩。その艶やかな朱色は弁柄塗りと呼ばれています(紅殻と表記されることもあります)。インドのベンガル地方から伝わったため、この名がついたと言われています。天然の土からとれる顔料で、酸化鉄を含むことから独特の赤い色合いを表現します。古代アルタミラの壁画にも使われていたそうで、人類最古の絵の具とも言われています。人体には無害であり、紫外線による退色もありません。また防虫防腐作用もあることから、建物の外壁を守る素材としても重宝されてきました。なにより、その色気のある色彩は、茶屋街を訪れる人を魅了します。また、「金澤しつらえ(旧諸江屋)」の正面には柳があり、朱色と緑が美しい色彩を作っています。これは、見返り柳と呼ばれています。茶屋街の入り口近くにあり、かつては遊び終えた酔客が、帰り際に名残惜しく見返したことから、この名がついたと言われています。

 

大戸
多くの茶屋には大戸が備え付けられています。日中はくぐり戸から出入りします。夜には大戸を開け放って暖簾をかけ、屋号の入った四角い行灯をつけて来客を誘っていました。ちなみに茶屋街では、道を挟んで多くの茶屋が立ち並んでいますが、入り口が正対することはなく、互い違いになるようにされています。お忍びの客が、鉢合わせにならないようにする配慮ではないかと言われています。

雨戸
ほとんどの茶屋は2階に雨戸があります。上部にガラスを入れた「高窓雨戸」が主流で、内側には転落防止の手すりを備えています。収納力のある大きな戸袋がついており、雨戸は全開放することができます。かつては、お座敷が始まれば、雨戸をすべて開け放ち、提灯などを軒にぶら下げて風情を楽しんだものと推察されます。

大階段
茶屋建築ではお座敷は2階に設けられていました。入り口近くに大きな階段がしつらえられており、来訪客はこの階段を通って座敷へと上がります。

 

中庭
多くの茶屋には中庭がしつらえられています。これは、日中は明かり取りとして機能し、冬には雪を捨てる場所にもなったといわれています。「金澤しつらえ(旧諸江屋)」の中庭には、井戸の跡がのこっています。風情を楽しむ庭というよりも、炊事や洗濯など、様々な機能を持った庭であったことがわかります。

聚楽壁
土に藁を練り込んだものを塗ってつくる聚楽壁。これには、調湿や消臭、防火の機能があり、木造の建物を守る素材として重宝されたものと思われます。この聚楽壁は、弁柄や朱色、群青、浅葱など多彩な色彩に着色され、お座敷を艶やかに彩る役割もありました。この写真は、かつて「金澤しつらえ(旧諸江屋)」を修繕する際、調査のために壁を掘ったものです。実に16層もの塗りなおしたあとがあり、200年もの間に、何度も修繕されたことがわかります。この調査の跡は大変に美しかったことから、当時の施主があえてそのまま残したそうです。


藩政期には、大火事がしばしば起きていました。そのため、財産を守るために蔵を持つ必要がありました。「金澤しつらえ(旧諸江屋)」は、母屋が蔵をすっぽり覆う入れ子のような構造を持っています。珍しい建築様式ですが、雪国などでは、蔵を雪などから守るためにこうした形をとるケースはあるようです。
 

金澤しつらえで、茶屋の風情を体感してください。

「金澤しつらえ(旧諸江屋)」は、1階は石川県ゆかりの高質工芸品を取り扱うショップ、2階は金沢の和菓子や旬のスイーツを楽しめる「茶房やなぎ庵」となっています。入場は無料です。代表的な茶屋建築の様式や風情を楽しみながら、素晴らしい工芸品や地元の食文化を体感できる施設として人気を博しています。金澤しつらえについては詳細ページへ

金沢市東山1-13-24
TEL/076-251-8899
休/第3水曜
営/10:00~18:00(茶房やなぎ庵は17:00まで)