2024.11.20

戦国の世、城下町金沢を守ってきた3つの寺院群

戦国の世、城下町金沢を守ってきた3つの寺院群

街なか、台地、山裾と個性豊かな寺院群を歩く

金沢城の整備を終えると、3代藩主利常(としつね)は城下のまちづくりに着手しました。その際、当時勢力があった一向宗(浄土真宗)寺院はそのままの場所に、そのほかの宗派の寺院は「寺町」「小立野」「卯辰山」に集められ、3つの寺院群が形成されました。城下への南北の入口となる要所に寺院群を配することで外的の侵入を防ぎ、さらには一向宗寺院をけん制するための軍事防衛的な役割があったのです。 現在も約70の寺院が集まる寺町寺院群をはじめ、台地に広がる小立野寺院群、山裾の道沿いに散在する卯辰山麓寺院がそれぞれの趣で藩政時代の名残りを伝えています。武家屋敷街や茶屋街とはまた違った「城下町金沢」を探しに、足を延ばしてみませんか。※写真は小立野寺院群の宝円寺(11月16日撮影)。

風情ある土塀の景観でおなじみの「寺町寺院群」

3つの寺院群のなかで最大規模を誇り、約70を超える寺社が集まる寺町寺院群。長い土塀が連なる寺町通りには寺院群らしい風情が漂い、それぞれの寺院の立派な山門や本堂、鐘楼を眺めながら散策を楽しめます。 おすすめのコースは、犀川のたもとの蛤坂(はまぐりざか)から、にし茶屋街周辺までのエリア内。市内繁華街に近く、国指定天然記念物の大桜がある松月寺、忍者寺で有名な妙立寺、金沢の三文豪・室生犀星ゆかりの雨宝院などを目当てに訪れる観光客が多い界隈です。中ほどには市内最大の広見(藩政期の火災避難場)である「六斗の広見」も残っています。極楽寺境内の一角には、オーガニック珈琲や手作りマフィンを楽しめる「スカーヴァティカフェ」があるので、一服するのもいいですね。

禅僧・千岳宗仞(せんがくそうじん)禅師が創建した宝勝寺。寺内のカフェで金粉入りの抹茶や和菓子が楽しめる

文豪・室生犀星が幼少期に養子として引き取られた雨宝院。境内の資料室には住職に宛てた書簡や初版本などの貴重な資料が展示されている

道路に枝を張り出す樹齢約400年の「大桜」が有名な松月寺。3代藩主利常が小松城内にあったものを移植したと伝えられている

高岸寺は、藩祖利家の正室まつの実家であり前田家の重臣だった高畠石見守の菩提寺。本堂・鐘楼・附棟札は金沢市の有形文化財

「金沢」の地名発祥にまつわる芋掘藤五郎ゆかりの伏見寺。平安初期の作とされる本尊は数少ない金銅仏で国指定重要文化財

寺町鐘声苑は寺院が多い一角にある無料休憩所。入口の立派な門をくぐると回遊式の枯山水庭園やトイレがあり、散策途中のひと休みに便利

前田家ゆかりの大寺院がひしめく「小立野寺院群」

金沢城の南東に位置する小立野寺院群には、約40の寺社が残っています。金沢城築城の際に戸室山から切り出した石垣を運んだ通称「いし曳の道」に沿って前田家ゆかりの寺院が点在。山手には、3代藩主利常が正室・珠姫を供養するために建立した天徳院や、利常の生母が創建した経王寺といった大寺院がたたずんでいます。 台地の下手へと続く八坂(はっさか)は、かつて木こりが使う八つの坂があり、そのうちの残った1つとか。目をみはるような急勾配を下りると「八坂五山」と呼ばれる寺院が点在。前田家の菩提寺である宝円寺も、歴史ファンには見逃せないスポットです。

宝円寺は、天正11年(1583)に藩祖利家が創建した前田家の菩提寺。藩主一族の位牌が安置され、利家の自画像と髪を納めた御影堂・御髪堂がある

3代藩主利常の生母・寿福院が養仙院日護を招いて創建した経王寺。後に火災に遭ったが、寿福院の十七回忌に利常が再建している

春尭和尚が藩祖利家の息女・福姫の縁類となったことを感謝し、寛永18年(1641)に建立した高源院。毎年7月1日の恒例行事「一ツ灸」が有名

 

 

城下の人々の暮らしに根づく「卯辰山山麓寺院群」

卯辰山のふもとに約50の寺社が点在する城下第2の寺院群。卯辰山は金沢城から見て鬼門(北東)にあたり、加賀藩は厄除けのために藩祖利家を祀る宇多須神社などの寺社を集めたといわれています。 深い緑の山裾に起伏に富んだ小道が続き、四季折々の景観に彩られた寺社は心洗われるような趣。参拝すると4万6000日分の功徳が得られるという「四万六千日法要」で知られる観音院、眼下に浅野川から日本海を一望できる宝泉寺、美しい庭園を配した心蓮社など、市民に親しまれる寺院が多く、藩政時代から受け継がれる人々の暮らしと信仰の関わりがしみじみと感じられるエリアです。

観音院は元和2年(1616)、3代藩主利常夫人の発願で造営。旧暦7月9日の「四万六千日」は参拝客で賑わい、通りの家々に貼られる張り紙は夏の風物詩

藩祖利家の守り本尊といわれる本尊の摩利支天で知られる宝泉寺。日本文学研究家のドナルド・キーン氏が「落葉の光景が金沢一の寺」と絶賛した

加賀友禅を完成させた宮崎友禅斎の墓碑や句碑が残る龍国寺。毎年5月17日には加賀友禅の業界関係者が友禅忌を開催している

ベンガラ塗りの楼門が「赤門」の愛称で親しまれる全性寺。健康と健脚を願って奉納された大わらじが掛けられているのも見どころ

心蓮社は「目開き阿弥陀」と呼ばれる国の重要文化財「絹本著色阿弥陀三尊来迎図」が寺宝。境内には「めでた造り」といわれる遠州流庭園がある

妙国寺は日蓮作と伝えられる大黒天像を安置し、別名「大黒寺」とも呼ばれる。境内にある大黒堂は、ころんと丸い宝珠の形がユニーク