2025.10.28

緑の中にひっそりとたたずむ禅の名刹~大乘寺~

緑の中にひっそりとたたずむ禅の名刹~大乘寺~

曹洞宗の聖地として730余年の歴史

金沢駅から南に6㎞。なだらかな野田山の丘陵にあるのが曹洞宗の大乘寺です。 鎌倉時代後期に、加賀の豪族、富樫氏によって現在の野々市市に密教寺院として創建。その後、越前永平寺3世徹通義介(てっつうぎかい)を迎えて、正応2年(1289)に開堂し、加賀国初の曹洞宗の聖地となりました。
藩政期には加賀藩の重臣、本多家の庇護を受け、菩提寺として本多家下屋敷内(現在の本多町)に堂を構えたのち、元禄10年(1697)に加賀藩から現地を与えられて移転。現在に至っています。

禅宗建築らしい七堂伽藍(しちどうがらん)を備えた堂々たるたたずまいで、仏殿は国の重要文化財。他の建物も石川県や金沢市の有形文化財となっています。金沢市内中心部からは距離があり、観光地として喧伝されていませんが、地元では広く知られた寺院です。

境内は自由に散策ができて、総門から山門、庫裏から法堂(はっとう)まで、土間の回廊を歩きながらの拝観が可能です。でも、おすすめは案内付きの拝観(要予約で1名500円、所要時間30分)。建物や仏像についてお坊様の説明を聞きながら見学した方が、理解が深まって楽しいですし、通常は立ち入り不可の建物も見せてもらえることがあります。

また、大乘寺のある野田山の北東斜面は野田山墓地として整備されています。加賀藩前田家初代当主、利家が兄の利久を葬ったことから、前田家一族の墓所となり、明治に入って市民の墓園となりました。墓石の数は5万基余りと伝わる一大霊園地です。高台にある「加賀藩主前田家墓所」は国史跡となっていますが、2024年の能登半島地震の影響で倒壊や破損があるので、見学の際はご注意を。

静寂に包まれる境内

 

 



参詣者を迎える黒と赤の門

参道に入って最初に通るのが総門です。黒色の外観から「黒門」と呼ばれています。寛文5年(1665)に本多町で建立され、現地に移った時に移築されました。
門をくぐると、うっそうとした緑に包まれます。マツやカエデがそびえ立ち、足元には苔がびっしり。この清々しさも大乘寺の大きな魅力。厳かでありながら、自然と一体となった枯淡の趣に安らぎが感じられます。地元の人が気軽に行きかう散歩コースになっていて、この日も常連と思しき女性が「こんにちは!」と声をかけてくれました。
そして第二の門が山門。緑に映える朱色が鮮やかで、こちらは「赤門」。総門よりも先に建てられ、同じように本多町から移築されました。総門も山門も共に県の有形文化財です。

寺院の威厳を感じさせる総門。秋は紅葉に彩られる

山門の楼上は仏堂。釈迦牟尼仏(しゃかむにぶつ)、釈迦の高弟である迦葉尊者(かしょうそんじゃ)と阿難尊者(あなんそんじゃ)、そして十六羅漢を祀る。山門をくぐるときは手を合わせて一礼を

山門の両脇には寺院の守護神、仁王像が鎮座。向かって右(写真)が吽形の密跡金剛(みっしゃくこんごう)、左が阿形の那羅延金剛(ならえんこうんごう)

山門の裏にある「しあわせの鐘」。自由に撞ける祈りの鐘



仏殿や法堂など風格ある七堂伽藍

山門をくぐると眼前に現れる大きな建物が仏殿です。こけら葺きの大屋根、「大雄殿」の偏額など迫力満点。正面に窓が切ってあり、内部を垣間見ることができます。
仏殿から右に進むと庫裏があり、土間の回廊が法堂へと続きます。法堂とは講義や問答が行われる建物で、修行僧が仏法を学んでいました。現在は法要の場となっています。回廊からは見えませんが、法堂の後方には歴代の住職を祀る神聖な開山堂があります。
法堂からさらに進むと坐禅堂です。現在、僧侶の修行がないので、普段は閉じられていますが、参禅会で一般に開放されます。

大乘寺のシンボル、仏殿。元禄15年(1702)の上棟で国重文

仏殿の中央には釈迦三尊像が祀られている。右隅には仏殿を守護する伽藍神、左には禅宗の祖師、達磨大師を安置。床が土間なのは禅宗寺院の特徴

仏殿の天井。中央は仏教の守護神である龍が描かれた鏡天井、周囲は霊鳥が描かれた格天井という荘厳な造り

仏殿の後ろに位置する法堂は、元禄10年(1697)頃に建立。県有形文化財

法堂に祀られているのは楊柳観世音菩薩(ようりゅうかんぜおんぼさつ)。左右の手に柳と酒水器を持ち、病を癒すご利益が

座布が整然と並び、気持ちが引き締まる坐禅堂の回廊

坐禅堂は修行僧が寝起きしていた寮。中央には仏の智慧を象徴する文殊菩薩(もんじゅぼさつ)が祀られている

 

 



坐禅堂で本格的な坐禅体験も

かつて1月の小寒から2月の節分にかけて行われていた大乘寺修行僧の托鉢寒修行は金沢の冬の風物詩でした。雪の中を草鞋履きで鈴を鳴らしながらの托鉢は凛としたたたずまい。現在、修行僧がおられないので途絶えていますが、回廊にかかる托鉢の装束にその名残が見られます。
食事をこしらえる台所や来賓のための客間がある庫裏(くり)は18世紀初頭の建築で、ここも県有形文化財です。内部の見学はできませんが、玄関土間には、大乘寺を最初に創建した豪族、富樫家に由来する毘沙門天や秋葉大権現、弁財尊天が、守護神として祀られているのでお参りを。お守りや御朱印もここでいただけます。
また、僧侶が指導する坐禅体験も受け付けています。原則10名以上の団体向けですが、少人数でも可能な場合があるとか。興味がある方は問合せてみて下さいね(平日限定、要予約、1名1000円、所要時間30分)。

庫裏から法堂へ。端然とした趣の回廊

元禄10年(1697)頃に建立された鐘楼。梵鐘は寛永8年(1638)鋳造で、金沢市で最も古い鐘と伝わる

修行僧が托鉢の際にまとっていた網代笠や衣

お守り500円やお札1000円

御朱印は300円~。僧侶に直書きをいただける場合もあるので尋ねてみて

日曜参禅会も行われ、参禅の寺として地元に根付いている

 

大乘寺・だいじょうじ

TEL : 076-241-2680
住所 : 石川県金沢市長坂町ル10
時間 : 9時~16時(受付は~15時)
休日 : 無休 
料金 : 境内自由。拝観案内(要予約、1名500円、所要時間約30分)。坐禅体験(平日限定、要予約、10名以上で実施、1名1000円、所要時間約30分)
交通 : 金沢駅から車で約25分。金沢駅から北鉄バスで27分、平和町下車、徒歩21分。バス停平和町そばの金沢市立病院前タクシー乗場からタクシー利用も可能、6分
駐車場 : 20台