2023.11.22

将軍家から加賀藩に嫁いだ姫君の物語~珠姫の寺・天徳院~

将軍家から加賀藩に嫁いだ姫君の物語~珠姫の寺・天徳院~

天下泰平のため、3歳で輿入れ

江戸時代、加賀藩が日本有数の都市として栄えた背景には、繁栄の礎となり、藩の危機を救った一人の女性の存在がありました。それが加賀藩三代藩主前田利常の正室「珠姫(たまひめ)」です。珠姫は慶長4年(1599)に徳川二代将軍秀忠の次女として生まれました。母のお江(ごう)は織田信長の妹、お市の方の娘で、豊臣家とも親戚にあったことから、珠姫は織田家、豊臣家、徳川家という戦国最強の家系につながる姫君でした。

慶長6年(1601)、いまだ天下の情勢が不透明ななか、珠姫が徳川家と前田家の架け橋 となるべく金沢城に輿入れしたのはわずか3歳のときでした。14歳で5歳年上の利常公 と結婚、三男五女に恵まれました。ふたりはたいへん仲睦まじく、珠姫が実父の将軍に 「江戸に滞在中の夫を早く国元に帰してほしい」と手紙を書いたというほほえましいエ ピソードも残されています。

しかし幸せな時間は突然終わりを告げ、元和8年(1622)、珠姫は24歳の若さで亡くな ってしまいます。その死を悼み、利常が妻の菩提寺として創建したのが天徳院です。天 徳院は曹洞宗のお寺で、珠姫の戒名「天徳院殿乾運淳貞大禅定尼(てんとくいんでんけん うんじゅんていだいぜんじょうに)」から名づけられました。お寺の趣は壮大さと優美さ を兼ね備え、ひたむきに生きた一人の女性の生涯をたどることができます。

写真:元禄7年(1694)に造営された山門。大火で多くの堂宇が焼失したなか、火の手をまぬがれて現在に至る

 

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由緒ある仏像と加賀藩ゆかりの品々

天徳院の敷地は往時には約4万坪もあったそうです。東京ドームの大きさが約1万4168坪というから、そのスケールはまさに規格外。寛永元年(1624)には千葉県の長安寺から珠姫の祖父、徳川家康が崇敬した巨山泉滴和尚(こさんせんてきおしょう)を招き、第一世開山(初代住職)としました。

その後、五代藩主綱紀(つなのり)が先代藩主の50回忌供養のために10年の歳月をかけてすべての堂宇を明朝式に造営建築。明和5年(1768)の大火で堂宇のほとんどを焼失したものの、翌年には十代藩主治脩(はるなが)がわずか70日で再建しており、天徳院が加賀藩にとっていかに重要な存在だったかがうかがえます。
 
天徳院はご本尊の釈迦牟尼仏のほか、羅悟羅尊者像(らごらそんじゃぞう)、見返阿弥陀立像、珠姫も信仰した虚空蔵菩薩像(こくうぞうぼさつぞう)など、多くの寺宝を所蔵しています。羅悟羅尊者像は、どのような人の心にも仏が宿っていることを伝えるために自らの手で腹を切り開いたお姿で、お腹の中にお釈迦様の顔が見える姿に最初はびっくりしますが、意味を知れば納得。貴重な寺宝が多いので、時間をとってゆっくりとめぐりたい名刹です。
 

山門の真正面に位置する本堂。本堂につながる石畳の道は右側が羅漢の道、左側が菩薩の道と呼ばれる

広々とした本堂の内部。本堂に限らず境内のあちこちに前田家の家紋・梅鉢紋を見ることができる

前田家に嫁いだ姫たちの着物や調度品、珠姫が折った和紙のひな人形など、ゆかりの品々を展示

山門上に祀られている十六羅漢(非公開)のうちの一体「羅怙羅尊者像」を本堂に安置

本堂に祀られた五大虚空蔵菩薩。5体の菩薩像があることからこう呼ばれる

虚空蔵菩薩は無限の智慧と記憶、慈悲を持つ菩薩

山門や本堂とは回廊で結ばれた鎮守堂。境内を見渡すかのように掲げられた天狗の面が印象的

鎮守堂内には観音菩薩を祀り、金龍稲荷白狐尊、烏天狗尊、白山妙理天狗尊の面が飾られている

巨大なお面は迫力満点。ミステリアスな雰囲気が外国人観光客にも喜ばれているそう

日本三霊山の一つである白山。人々が崇拝してきた白山信仰を反映した白山妙理天狗尊

 
 

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人形劇と庭園美をゆるりと愉しむ

本堂では、幼くして父母の元を離れ、未来の前田家三代藩主に輿入れした珠姫の生涯を、からくり人形が演じる「珠姫・天徳院物語」が人気です。堂宇の一角に御殿を再現した舞台があり、10時、12時、14時、16時の1日4回(12月~2月は16時の上演なし)上演。人形は江戸時代から続くからくり人形師の玉屋庄兵衛(たまやしょうべえ)8代目が制作し、気品あふれる姿が魅力です。

また、枯山水の庭園に面した茶席で抹茶(一服500円)を楽しむのもおすすめ。お茶菓子も前田家の家紋・梅鉢紋の形でほっこり和みます。庭園には、なんじゃもんじゃと呼ばれる銘木があり、ゴールデンウイーク明けが白くふわふわとした花の見ごろ。秋の紅葉も見事なので、ゆっくりと散策しながら四季折々の風情を眺めたいものです。
 

三男五女を生み育て、両家の架け橋の役目を立派に果たした珠姫の生涯を6体のからくり人形が紹介

珠姫と利常、ふたりの間に生まれた子どもたちが物語を進行していく

炉を切ってある茶室。ここに続く座敷に緋毛氈が敷かれた茶席スペースがある

抹茶(干菓子付き)一服500円。珠姫の夫、利常が茶道を奨励したことから金沢は今も茶道が盛ん

茶席に面した枯山水庭園はどの方向から見ても美しい。竹林もあり、日本の庭園美が堪能できる

庭園の一角に佇む金龍稲荷大明神奥院

庭園の最奥には開祖以来の歴代住職のお墓が並ぶ歴住塔があり、静かに山内を見守っている

珠姫が江戸から持ってきたのが始まりと伝わる加賀てまり。縁起物の加賀てまりの根付を求めることができる

 

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天徳院 てんとくいん

TEL:076-231-4484
住所:石川県金沢市小立野4-4-4
時間:9時~16時30分(受付は~16時)、12~2月は~16時(受付は~15時30分)
休日:12月~2月の水曜、年末年始(12月29日~1月3日)
料金:拝観500円、呈茶500円
駐車場:30台