2022.03.20

艶めく意匠、ひがし茶屋街のお茶屋を見学~志摩~

艶めく意匠、ひがし茶屋街のお茶屋を見学~志摩~

2019.11.20でも紹介している「ひがし茶屋街」。この中でも志摩については触れていますが、今回は200年以上経つお茶屋・志摩の内部まで徹底解明します。美意識の高い芸妓たちが粋と洗練を競い、上客をもてなす社交場であったお茶屋・志摩。その建物内には押し入れや物入れがなく、住居とは違った遊芸空間になっています。お茶屋の中はもてなしを意識し、床の間や掛け軸、釘隠し、襖の取っ手などに意匠を凝らし情緒たっぷり。建物は2003年、国指定重要文化財に登録されています。さて、「一見さんお断り」が原則の志摩を隅々まで覗いて見ましょう。

ひがし茶屋街の通りは国が選定する「重要伝統的建造物群保存地区」および「金沢の文化的景観」に選定されています。写真は二番丁通り、木造2階建てのお茶屋が連なりフォトジェニック。古い建物をそのまま利用したみやげショップやカフェなどが点在し、写真の手前左にある紅殻格子の「金澤しつらえ」では、石川のなかでも選び抜かれた工芸品を展示販売しています。2階は粋で雅な雰囲気の和喫茶。季節ごとに登場する限定スイーツが魅力です。

ひがし茶屋街「金澤しつらえ」の3軒おいてとなりが「国指定重要文化財 志摩」です。内部にお邪魔して写真と文章で紹介していきます。遊芸に特化した独特の茶屋建築をご覧ください。また、志摩のDATAは「2019.11.20」号でご確認ください。

文政3年(1820)に建てられたお茶屋「志摩」。2階部分に提灯掛けの小屋根があり、1階の目の細い格子は「木虫籠(きむすこ)」とよばれます。中に入ると手荷物はロッカーに預け、保全のために靴下は必須。階段を上がり2階から見学します。

遊興の舞台となるのは2階の座敷です。志摩には2つの座敷と離れが1つあり、こちらは「前座敷」。床の間に向かって後ろには「ひかえの間」があり芸妓さんがスタンバイ。襖が開くと床の間を背にして芸妓さんのあでやかな舞や琴、三味線などの遊芸を楽しむ仕組みです。

もうひとつの座敷、「ひろま」です。右が床の間、左がひかえの間で太鼓などが置いてあります。中庭に面した手すり部分の透かし彫りや襖の取っ手の七宝焼など、贅を尽くした細工を見逃さないで見学。座敷はどちらも柱は漆塗り(拭漆)で壁は鮮やかな紅殻色。艶めいた雰囲気で優美。

6畳の「はなれ」は数寄屋造りの小部屋。柱は紅殻色ではなく白木造り、壁の色もシックなうぐいす色。地味で簡素ですが、こちらはお茶席や影笛などに使われていたようです。

表通りに面した1階の部屋「みせの間」。かつては芸妓さんが化粧をするなど、お座敷に出る準備をしていた部屋だそう。今は、往時使用されていた加賀蒔絵の酒器や鏡、髪飾りなどの道具類を展示しています。

みせの間の展示品。その中に、実際に使用されていたべっ甲や象牙などのかんざしやくしなどがありました。それぞれに意匠にこだわったもので、これを付けた芸妓さんたちはいっそう華やかだったでしょう。

小さな中庭が見渡せる「おくの間」。主に店側が使用する1階、帳場やみせの間の奥に位置するこの空間は女将の部屋だったそうです。落ち着いた日常的な空間です。この部屋だけ天井板が張ってありました。

井戸を備えた「台所」です。すぐ横には野菜などの食料を貯蔵できる「石室」があります。ただ、お茶屋は遊芸が主体のため、料理は仕出し屋から取り寄せていました。棚に並ぶ酒器などの道具類はここで使われていたのでしょう。

見学のあとは、台所の奥にある茶室「寒村庵」での一服がおすすめ。庭を眺めて座る足落としのカウンター席は、ホッと落ち着きます。抹茶とお茶席専門の和菓子屋から取り寄せる上生菓子で、しばし休憩です。