丈夫で美しい風合いが魅力の牛首紬
北陸を舞台にし、石川県加賀市もロケ地となった映画『牛首村』が話題となっています。かつて霊峰白山のふもとに同名の村がありましたが、こちらは映画とはまったく関係ないそうです。現在の地名は石川県白山市白峰。今回ご紹介する「牛首紬(うしくびつむぎ)」が受け継がれる小さな山里です。牛首とは不思議な地名ですよね。由来には諸説ありますが、この地の守護神、牛頭天王(ごずてんのう)にちなんだ名前だとも伝えられています。
平安末期には平治の乱に敗れた源氏の落人が流れついたという伝説が残されており、同行の妻女が機織りの技術を伝え、牛首紬のルーツになったといわれています。牛首紬の名前が知られるようになったのは江戸時代のこと。耕作地に乏しく、日本屈指の豪雪地帯である白峰地区では古くから養蚕がさかんに行われ、人々の暮らしを支えてきました。受け継がれてきた養蚕、製糸、機織りの技術が牛首紬の名声を高めたのです。
牛首紬の特長は、なんといってもその丈夫さ。釘に引っ掛けても破れないというたとえから別名「釘抜き紬」ともよばれます。落ち着いた光沢とふんわりとした軽やかさ、着るほどになじむ風合いも牛首紬ならではの魅力です。こうした独特の風合いを生み出す秘密は、2匹の蚕が入った「玉繭」。蚕2匹分の糸が複雑に絡み合うため、糸を引くには高度な技術が必要とされます。一般的に玉繭は製糸には向かず、売り物にならないくず繭として扱われますが、白峰地区では古くから自家用として無駄なく有効利用してきた背景もあり、玉繭を扱う技術が受け継がれてきました。節の入った玉繭の糸を緯(よこ)糸に用いることで、味わい深く丈夫な織物となるのです。